近年の通信ネットワークの高速化,PCをはじめスマートフォン・タブレットなど端末機の多様化により,ICT(Information and Communication Technology)の教育システムへの適用が進んでいる.e-learningに代表される教育・学習コンテンツの電子化とその普及は大学だけではなく,小中高の教育の場面で徐々に,しかし確実に浸透している.また,e-learningは従来の対面式教育の代替にとどまらず,反転授業・協働学習などや,携帯端末を導入したモバイル学習・すきま学習など新たな教育・学習スタイルを可能にするものとしても期待されている.
近年,e-learningに代表されるICTの教育システムとしての活用はますます広がりを見せ,LMS (Learning Management System) やオンデマンドの学習教材が実用化されるに至っている. 一方で,クラウドコンピューティングやモバイル端末の急速な進化により,教育で活用できるツールの幅はますます広がりを見せている.ハードウェアの急速な発展に対してICTを如何に活用すべきであるかについては,実際の教育場面における実証研究も含め,様々な取り組みの蓄積が必要である.そのためには,教育工学だけではなく,統計学・言語学・情報工学・通信工学・知識工学・ソフトウェア工学といった従来の分野を融合した形の新たな展開を図らねばならない.
本研究では,様々な分野の研究開発者が協力し,現実の教育場面で生じる問題点を解決しながら進む方法により,ICTを用いた次世代教育システムの構築を目指す.
テーマを絞りサブグループを発足させる.参加メンバーを明確にし,集中的な実証実験・評価・考察などを行っている.
SG | 名称(太字は略称) | 設置年度 | メンバー |
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A | クラウドコンピューティング環境におけるe-learningスタイル | 2011~2014 | 梅澤克之・小泉大城・近藤知子・玉木欽也・中澤真*・中野美知子・ 平澤茂一 |
B | クラウド時代の協働学習ツールとそのユーザビリティ | 2012~継続 | 梅澤克之・近藤知子・玉木欽也・中澤真*・中野美知子・ 平澤茂一 |
C | 英語教育とeラーニング | 2012~継続 | 石井雄隆・Enriquez, Guillermo・近藤悠介*・斉藤友彦・ 中澤真・中野美知子・吉田諭史 |
D | 地方創生に向けたGlobal-CEP育成プログラム -Global-Cultural Experience Professional- | 2012~継続 | 新目真紀・玉木欽也*・権藤俊彦 |
E | 電子書籍に関する研究開発 | 2012~2015 | 荒本道隆・石田崇・梅澤克之・Enriquez, Guillermo・隈裕子・ 小泉大城*・後藤正幸・小林学・佐藤一裕・須子統太* ・中澤真・ 中野美知子・中原歌織・平澤茂一・吉田諭史 |
F | ラーニングアナリティクスとデータ解析 | 2015 | 隈裕子・小林学*・後藤正幸・雲居玄道・中澤真・中野美知子・ 平澤茂一 |
G | ICTを用いた教育・学習などの地域社会への貢献 | 2015~継続 | 石田崇・大谷康介・後藤裕介*・中澤真・松田健 |
H | コンテキストアウェアネスと学習分析方法 | 2016年度~継続 | 石井雄隆・石田崇・梅澤克之*・Enriquez, Guillermo・ 大谷康介・隈裕子・雲居玄道・後藤正幸・小林学*・斉藤友彦・ 佐藤一裕・須子統太・中澤真・中野美知子・平澤茂一・松田健・ 吉田諭史 |
N | ラーニングアナリティクスに基づくICT教育の次世代モデルに関する研究 | 2017年度~2022年度 | 後藤正幸*・中澤真・梅澤克之 |
*:幹事
主として大学の基盤教育科目(情報基礎科目・数学応用科目・専門導入科目など)と語学教育科目を対象とするが,今後リメディアル教育科目・日本語リテラシー教育科目・情報リテラシー教育科目・資格取得教育科目・生涯教育科目なども含める.また,大学に限らず小中高などの学校への上記関連科目の展開を図り,e-learning教育の普及・浸透を目指す.
科目名(仮称) | 対象学生(生徒を含む) | SG | 発表資料例 (研究業績参照) |
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コンピュータ入門 | 湘南工科大学・情報工学科 | E | [UKINAH2015] |
統計入門 | 早稲田大学・社会科学部 | E | [KSH2015] |
プログラミング演習 | 会津大学・短期大学部 | B | [NGH2015] |
英語:Discussion Tutorial | 早稲田大学・GEC** | C, E | [NYSTE2015] |
英語:CCDL* | 早稲田大学・GEC** | C, E | [NYSTE2015] |
プログラミング教育 | 新潟県立松代高等学校 | H | [UISNH17b] |
プログラミング教育 | 新潟・松代小学校5・6年生 | C,G,H | |
英語・プログラミング教育 | 本庄高等学院3年生 | C,H | [UNKINH20d] [N21] |
プログラミング教育 | 湘南工科大学・付属高等学校3年生 | H,N | [UNKINH20d] |
プログラミング教育 | 湘南工科大学・情報工学科4年生 | H,N | [UNKINH21a] |
* Cross-Cuture Distance Leraning ** GEC:グローバルデュケーションセンター
■サブグループA
■サブグループB
■サブグループC
■サブグループD
■サブグループE
■サブグループF
■サブグループG
■サブグループH
■サブグループN
仮想化デスクトップ型クラウドコンピューティング環境において,マルチプラットフォームによるモバイル学習やすきま学習を可能にしたe-learningの学習スタイルを明らかにする.
クラウドコンピューティングの普及に伴い,データの共有だけでなく協働での学習活動も容易にできるようになりつつある.そこで,協働学習を効果的・効率的に展開するための学習ツールや授業デザインについて検討する.協働学習ツールや環境のユーザビリティについても評価・分析する.
テーマ1:「クラウドサービスを活用した協働学習型授業の実証実験」
概要:
クラウドサービスとして「Google Apps for Education」や「Office365 for education」を活用した協働学習型の授業の実証実験を実施し,教員側の視点,学生側の視点の両方向からユーザビリティについて評価・検証した.ここで実施した協働学習は「コラボラティブ ライティング」と「ノートテイキング」であり,このような同時編集作業をする場合に既存のサービスが十分活用できることを検証した.
テーマ2:「ネットワーク品質(QoS)がクラウド型学習環境へ及ぼす影響」
概要:
ネットワーク品質がクラウド型学習環境へ及ぼす影響についてネットワークエミュレータを用いて実験的に明らかにし,適切な学習環境を維持するために,情報機器上での学習作業別の要件を示した.
テーマ3:「学習履歴に基づく協働学習の効果分析」
概要:
学習者の理解度や進捗の差が開きやすいプログラミング授業において,ペアワークなどの協働学習を取り入れることがクラス全体の底上げに効果的である.このような授業を的確に運用するためにはペアの組み合わせ方が重要であり,そのための指標が必要となる.この指標としてクラウド型学習環境における学習履歴を用いることにより,学習効果を分析できる可能性について検討した.
部会Cでは,早稲田大学グローバル・エデュケーションセンターで開講されている英語チュートリアル,World Englishesや異文化交流実践講座(CCDL)など,英語教育にICTを取り入れた授業実践について検討する.
協働人材の一つとして,現在,産官学連携による地方創生事業を推進する地域リーダーの育成が社会に求められている.そこで、地方創生と首都圏を結ぶ体験ツーリズムに基づく「おもてなし総合サービス産業雇用創生」の総合演出家(Global–CEP)の人材育成に取り組むことする.その人材育成プログラムをさまざまな地域の受講者に向けて展開していく際に,モバイルラーニングをはじめとした各種のICTやコンテンツマーケティングの応用技術を研究していく.
従来の紙媒体の書籍の文字や図表等の情報に加え,マルチメディアコンテンツもデジタル情報として記録した電子媒体による書籍の特性や可能性を把握し,試作を通じた評価を行う.対象は主に情報学,統計学,英語等の科目とし,従来のPC端末に加えてタブレット端末やスマートフォン端末も想定する.また教室における対面式講義に電子書籍を利用することによる学習効果への影響等についても検討する.
テーマ1:「情報学基礎のための電子教材の試作と評価」
概要:
補助的マルティメディアコンテンツが含まれた「コンピュータ入門」の電子教材の試作を行い,電子教材の視覚効果が,授業の分かりやすさにどのように影響するのかを評価した.また,従来型の紙の教材から電子教材を発展的に開発する際の設計法を取り上げ,電子教材作成者の意図とそれに適したコンテンツ種別を分類・整理し,評価実験およびアンケートを実施し考察を行った.さらに,試作した電子教材の一部を用いて自習を行い,その時の学習ログに基づいて対面授業時に理解度に合わせて学生をグループ分けして授業を行う,効果的な反転授業の提案を行った.
テーマ2:「統計学基礎のための電子教材の試作と評価」
概要:
通常の文章に加えスライドによる解説やリンク機能,ランダム出題により何度も練習問題を解ける機能などを付加した,タブレット端末上で動作する自習用電子教科書を作成し,紙の教科書との学習効果の違いを検証した.
テーマ3:「学習履歴収集・可視化システム」
概要:
マルチデバイス(パソコン,iPhone/iPad端末,Android端末)に対応し,インタラクティブなコンテンツ(動画再生,音声再生,小問題,等)を埋め込める,また,学習者の学習履歴を詳細にログ取得し,ページ単位の参照時間や,インタラクティブコンテンツの利用状況の詳細を可視化することで,コンテンツの改善や,学習者の学習方法の改善に結びつけられるeラーニングシステムを開発した.
テーマ4:「学習者ログの分析による英文読解過程の究明」
概要:
英文読解過程は直接観察できるものではないが,学習者ログを可視化することで,読解ストラテジーを同定することができる.時事英語の文章を2,3文からなるパラグラフに分割し,各パラグラフの読書時間を測定した.学習者が使用するストラテジーを,学習者自身で同定した.内容理解問題や記述問題を与え,成績の良い学生の用いるストラテジーを特定し,授業改善に役立つ資料を得た.
学務システム,LMSやEポートフォリオ,IRシステムなどの急速な発展及び普及により,大学における学生の活動全般は大規模データとして集められるようになってきている.しかしこれを大学の教育活動や経営活動にフィードバックするための分析手法が十分に確立しているとは言い難い.本研究では学生の大規模な活動履歴に対して,ビッグデータ解析技術を用いることにより,講義などの教育へのフィードバックはもとより,退学・休学者の予測,入学試験の妥当性の検証などIR活動に有益な情報を自動的に抽出する手法の開発を目指す.
さまざまな地域における小中高校生や一般住民などを対象としたe-learning実践のための教材・システム開発と教育実践を行い,実践を通じた諸課題発見・施策の評価を行う.
「文脈を認識できる」という意味のコンテクストアウェアネスという概念を、学習者や学習環境に対して用いることにより,学習者の学習活動データをもとに学習状況を認識することで学習効果を高める方法論を確立することを目的とする.
本サブグループは,NTT包括協定共同研究「ラーニングアナリティクスに基づくICT教育の次世代モデルに関する研究」と,他サブグループとの情報連携を深化し成果の最大化を目指すものである.
本研究ではe-learningを基軸に,学習・教育システムに必要なシームレスな環境作りを目指している.そのためには,e-learningを対面教育の代替教育手段として捉えるのではなく,対面教育の短所を補完する真のブレンディッドラーニングが必要である.さらに,これとフルオンラインラーニングの狭間を埋めるのに有効なICTを用いた教育環境作りも大切であろう.
e-learningは,いつでも(anytime)・どこでも(anywhere)・誰でも(anyone)学習ができる環境として,重要な役割を果たしてきた.確かに,VoD (Video on Demand)やWBT (Web Based Training)などによる知識伝達型の授業形態には,その効率性・高品質性などの点から対面授業を凌ぐものがある.しかし一方,PBL (Project Based Learning)や協働学習,さらにはゼミナール・研究指導などには大学教育には欠かせない教員と(複数の)学生間,複数の学生同士の議論の場がある.多様な人間が相互に意見交換ができる場こそ,初等・高等に限らず教育に必須の環境である.
教育分野でも同期型のテレビ会議システムやSkype™による交流は利用されており,また既に多くのLMSにはチャットによるフォーラム機能がある.さらに学生による発表コンテンツのアップロードを可能にする非同期型の議論の場も実現されている.2020年当初から始まった新型コロナ禍の中で,図らずも大学など高等教育において教壇の対面授業に代わるオンライン授業が大幅に導入され,e-learningの成果が広く適用された.特に,Zoomによるゼミや国際会議や国内学会の講演発表にもオンライン開催として適用され,絶大な効果をもたらした.しかし勤労学生などを対象とする場合の非同期型を熱望する期待には応えていない.e-learning教育システムの中で,同期型・非同期型によらず,自由かつ容易な意見交換の場となるICTを用いたバーチャルセミナールームの構築が望まれる.
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